深部静脈血栓症に対する

カテーテル血栓溶解療法

福島県立医科大学 名誉教授 星野 俊一

福島第一病院心臓血管病センター 小川 智弘

 

 一般に深部静脈血栓症(DVT)の発症頻度は日本では欧米に比し少ないとされてきたが、病態の理解と診断の進歩により、最近増加してきた。我が国の整形外科手術を含む全科のDVT発症率は16%であり、長期臥床13%、悪性腫瘍11%、左腸骨静脈のIliac compression7%であった。1) 整形外科手術後は多くみられ、藤田らは人工股・膝関節全置換術ではDVT発症を21%・48%と高率に認めている。2) DVTのもたらす急性期における肺塞栓、慢性期における慢性静脈不全の合併症を防止するためには適切な血栓溶解法は重要である。

  DVTに対し、血栓溶解療法は広く行われているものの、全身投与または患肢の末梢静脈投与では、有効な血栓溶解効果が得られないことが多い。最近、より確実に効果をるため、カテーテル血栓溶解療法が行われるようになってきている。

適応

 カテーテル血栓溶解療法は、日時の経過した血栓症に対しても有効であるとの報告もあるが、著者らは症状出現後1−2週間以内の急性血栓症を適応としている。3)

 ターゲットとするDVTは大静脈、腸骨静脈、大腿静脈、鎖骨下静脈などの比較的口径の大きい静脈血栓である。

  脳出血、その他臓器出血の危険性が高い場合には血栓溶解療法は適応とはならない。また激痛を伴う有痛性青股腫では血栓溶解よりも血栓摘除術が選択される。  

手技

 

図1 腸骨大腿静脈血栓に対するカテーテル血栓溶解療法の手技

 患肢足背静脈より静脈造影を行い、血栓存在部位を確認する。内頚静脈より一時留置型大静脈フィルターを挿入し、腎静脈分岐下に留置する。大伏在静脈よりパルススプレーカテーテルを挿入し血栓部位に留置後、血栓溶解剤を注入する。

 カテーテル血栓溶解療法の手技を図1に示す。超音波検査や静脈造影にて血栓部位を確認し、カテーテルを血栓内に挿入、留置する。カテーテルの挿入静脈は血栓の存在部位によって決められるが、順行性にカテーテルが進めることができる静脈を選択する。逆行性にカテーテルを挿入すると静脈弁を破壊し、遠隔期に慢性静脈不全に悩まされる可能性が生ずるので避ける。著者らは下大静脈および腸骨静脈の深部静脈血栓症に対しては内頚静脈より、腸骨大腿静脈血栓症に対しては大伏在および小伏在静脈の分枝、大腿、膝窩静脈より、また鎖骨下静脈血栓症に対しては橈骨皮静脈よりそれぞれカテーテルを挿入している。

 さらに腸骨大腿静脈血栓症ではX線透視下にて頚骨静脈よりカテーテルを挿入する場合もある。 カテーテルは注入時にカテーテルの側面よりシャワー状に血栓溶解剤を注入できる多孔式カテーテル(Angiodynamics 社製、パルススプレーカテ−テル)を使用する。

 血栓溶解剤はウロキナーゼ(UK)かティシュプラスミノゲンアクティベーター(tPA)を使用する。使用量は、大量投与が高い血栓溶解効果を示す可能性があるが、逆に合併症である出血の危険性が増加するため必要かつ十分量に留めるべきである。欧米では、UKを15万単位/時間を1−3日間と比較的多量に使用されている。著者らはカテーテル留置時にUKを24-96万単位注入後、血栓量に応じて、持続的に24-96万単位/日を3−7日間注入している。

 さらに最近では、血栓溶解時に血栓が遊離し肺塞栓となる危惧を防止するため、一時留置型大静脈フィルターを血栓溶解療法中に使用して、カテーテル血栓溶解療法を行っている(図2)。一時留置型大静脈フィルターは主として内頚静脈より挿入し、鎖骨下静脈血栓の場合は上大静脈に、腸骨大腿静脈血栓の場合は下大静脈に血栓溶解療法前に挿入し、溶解療法終了時にフィルターを抜去する。

図2 一時留置型下大静脈フィルター(Neuhaus Protect Filter)

下肢深部静脈血栓症では、腎静脈下下大静脈に留置する。

抗凝固剤の併用および後療法

 血栓の進展防止および再発防止のために抗凝血薬療法が併用される。著者らはヘパリンを1万単位/日で投与し、経口可能となれば、ワーファリン内服に切り替え、その後6−12ヶ月は抗凝血薬療法を継続することを原則としている。

合併症とその予防

 血栓溶解療法の合併症としては、カテーテル挿入部位よりの出血、血腫形成、血尿、消化管出血、脳出血などが挙げられる。その予防策として、フィブリノーゲンを随時測定しコントロールするのが簡便であり、100mg/dl以下になった場合は、血栓溶解療法を中止する。また合併症としての肺塞栓症については、カテーテル血栓溶解療法12例中6例に一時的静脈フィルターに血栓の捕捉が認められた報告もあり、4) 術中の肺塞栓予防のために、一時留置型フィルターの使用が勧められる。

カテーテル血栓溶解療法の臨床評価
血栓溶解療法の効果については、術後3日間は臨床症状および超音波検査(デュプレックススキャニング)にて評価し、術後3−7日目に静脈造影を施行するのを原則としている。著者らは血栓溶解療法後、50%以上の静脈狭窄が存在する場合には、DVTの再発防止のため、バルーン血管形成術やステント留置術を施行し、狭窄の解除に努めている。(図3)

図3 腸骨大腿静脈血栓症の1例

76歳、女性、発症7日目の急性深部静脈血栓症で左総腸骨静脈より浅大腿静脈まで閉塞がみられる。左大伏在静脈よりシースを挿入し、パルススプレーカテーテルにてウロキナーゼ24万単位をbolusに使用、その後持続にて72万単位使用後、静脈造影を行った。外腸骨静脈は一部溶解したが、iliac compression部位は狭窄が高度なため、バルーン形成術及びステント留置術を行った。

CDT:カテーテル血栓溶解療法

カテーテル溶解療法の成績

 

カテーテル血栓溶解療法は全身および患肢の末梢投与による血栓溶解療法に比較し有意に血栓の減少を認め、カテーテル血栓溶解療法の有用性を示唆している(図4)。3,5)また残存狭窄に対し、バルーン血管形成術やステント留置術を行うことにより、さらに成績が向上することが報告されている。6)  

図4 血栓溶解療法の成績

(経カテーテル投与法VS全身および末梢投与法)

CDT:経カテーテル投与法(13例)、GT:全身および末梢投与法(38例)、VSスコア:静脈造影から血栓症の重症度を評価した指標で、広範囲の血栓症ほど高い点数を示す。経カテーテル投与群では血栓溶解療法後、有意に血栓の縮小を認めている。

 

まとめ

 深部静脈血栓症に対しては、血栓除去術も施行されているが、その成績は必ずしも良好ではなく、有痛性青股腫のような重症例や血栓溶解療法の禁忌例および効果不良例に限られている。7) それゆえ、血栓溶解療法に対する期待は大きい。全身および患肢の末梢投与による血栓溶解療法に比較し、カテーテル血栓溶解療法はより確実に高濃度の血栓溶解剤をターゲットとする血栓に注入できるため、効率的に血栓溶解が行なえる利点を有する。血栓溶解療法の効果は治療開始時期および血栓量に影響されることが多く、成績向上のためには、できるだけ早期に治療を開始することと、血栓量に見合った血栓溶解剤の量を使用することが必要である。またDVT後の残存狭窄に対し、バルーンやステントによる血管内治療を併用すればさらに成績向上につながるものと考えられる。

文献

1)星野俊一、佐戸川弘之:深部静脈血栓症,本邦における静脈疾患に関するSurveyI、静脈学,8:307-11,1997.

2)藤田悟、富士武史他:股関節または膝関節全置換術後における深 部静脈血栓症および肺塞栓症の発生頻度,予見的多施設共同研究,整形外科,51:2000-7.

3)星野俊一:カテーテル線溶療法の効果. 静脈疾患診療の実際, 文光堂, 1999,97-9.

4)中野赳、山田典一他:静脈疾患の診断と内科治療の適応に関する研究. 国立循環器病センター循環器病研究委託費9公-6 静脈疾患の病態、治療及び予防に関する研究班

5)星野俊一、小川智弘:深部静脈血栓症、線溶療法の実際. 静脈疾患診療の実際, 文光堂,1999,89-93.

6)Semba CP,Dake MD: Iliofemoral deep venous thrombus: aggressive therapy with catheter-directed thrombolysis. Radiology, 191: 487-94, 1994.

7)Comerota AJ: Thrombolytic therapy for acute deep vein thrombosis. Thrombolytic therapy for peripheral vascular disease. JB lippincott,Philadelphia, 1992, 175-84.